大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2455号 判決

原告 肥後亨

被告 国

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の請求の趣旨及び原因並びにこれに対する被告の答弁は、それぞれ別紙訴状並びに答弁書記載のとおりである。

なお、被告は原告の氏名を記載して投票された投票用紙の総数は法定数に達していなかつたのであるから、この点からしても原告の請求は理由がないと述べ、被告は得票数が法定数に達しなかつたことは認めると述べた。

理由

原告は昭和三一年七月八日施行の参議院東京都選出議員選挙の候補者であつたが、被選挙権を有しなかつたため、原告に対する投票がすべて無効となつたことは当事者間に争がない。しかして、公職選挙法九三条一項は公職の候補者の得票数が法定数に達しないときはいわゆる供託金を没収することを定めている。右にいう得票数とは文字どうり得票数であつて、被告のいうように有効得票数を意味するものではないと考える。その理由は、有効投票を指示する場合には公職選挙法は例えば「有効投票の総数」とか「有効投票の最多数を得た者(九三条一項、九五条)とかいうように明瞭に有効投票といつているし、また、仝法七一条は「投票は、有効無効を区別し……」といい、これをうけた同法施行令七二条から七六条までの規定を通覧すれば、先づ候補者の「得票数」が定まり、しかる後に「得票数」のうちから有効無効の判別がなされることが明らかなので、法九三条一項の「得票数」とは、施行令七二条及び七三条にいう「得票数」を意味するものと解しなければならないからである。そして、このように解釈することがむしろ郡小候補者の濫立を抑制しようとする法規の目的にも副うものであると思われるからである。従つて、本件の場合に、投票がすべて無効となつたのだから右の供託金没収の規定ははたらかない、被告は原告に供託金を返還する義務があるという原告の主張も、また、原告の有効得票数は零であるから被告には供託金を返還する義務がないとする被告の主張もともに理由がない。しかして、原告の氏名を記載して投票された投票用紙の総数-これがすなわち得票数であるが法定数以下であつたことは当事者間に争がないのであるから、この点において原告の請求はその理由を欠くものと認める。

右のとおりであるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三)

別紙

請求の趣旨

「被告は原告に対し昭和三十一年七月八日執行の参議院東京都選出議員選挙の供託金金拾万円の金員を返還しなければならない。」

との判決を求める。

請求の原因

(一)、原告は昭和三十一年七月八日執行の参議院東京都選出議員選挙の候補者であつたものであるが、

(二)、当該選挙は原告から別件提起されてゐた東京高等裁判所昭和三十一年(ナ)第六号参議院東京都選出議員選挙無効確認事件が昭和三十二年三月四日取下げられたので即日確定するに至り法定得票数を得た候補者は供託物返還請求権を有したものである。

(三)、こゝに於て原告は選挙期日に被選挙権を有しなかつたため原告の氏名を記載した投票はすべて無効となつたものである。

(四)、而して原告はその投票のすべてが無効となつたのであつて有効数の基礎たる零ではないから、公職選挙法第九十三条第一項第三号の供託物の没収の条項には該当しない。即ち投票がすべて無効となつた場合に於ける供託物没収の規定がないのであるから被告は当然原告に供託物を返還すべきである。

(五)、しかるに被告は原告の供託物を没収したのでこゝに頭書趣旨の通りの請求をする次第である。

答弁書

請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因に対する認否

第一項ないし第三項 認める。

第四項、第五項 争う。

被告の主張

候補者(又は推薦届出者)の供託金返還請求権は、当該選挙における候補者の有効得票数が公職選挙法第九三条第一項第三号に規定する数に達していたとき発生する(同法施行令第九三条第二項)。しかるに本件選挙における原告に対する有効得票数は零で同条所定の数に達していないから、原告には供託金返還請求権がなく、右供託金は国庫に帰属したものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例